バレンシア南西部、地中海から50km内陸に入ったところにあるモイセンの標高およそ550mの丘陵地に位置するワイナリー、celler del roure(セイエル・デル・ロウラ)。1996年に設立、50haの自社畑を所有する家族経営のワイナリー。オーナーはバレンシアワインのパイオニア、パブロ・カラタユー。

パブロ・カラタユー

 パブロは2000年代前半、国際品種でアメリカンオークと、フレンチオークを使ったワインを造り、アメリカ市場で大きな成功をつかんだ。しかし、パブロはその成功に留まらず、固有品種の黒葡萄マンドー(Mando)に注目。マンドーは20世紀以降、大量生産には向かないとされ、栽培面積は激減、ほぼ絶滅しかけている。パブロは、スパイシー、フローラル、タンニンは少なく、とてもエレガントで地中海の森が表現できるマンドーの可能性を信じ復活させるために、バレンシア工科大学と共に研究を続けた。樽の大きさを変えたり、熟成期間を変えたりなど、試行錯誤を繰り返したが、納得できる味わいにはなかなか辿り着かなかった。

 こんなパブロに新たな転機が訪れる。2006年に購入した畑の敷地内で17世紀頃につくられたとされる地下セラー、ボデガ・フォンダを発掘。そこには2600ℓの大きさのアンフォラが眠っていた。スペイン内戦の下で1936年以来、誰もその存在を知らなかった宝物。

 固有品種マンドーが心地よく熟成できる湿度や静けさ、暗さなどの環境が整えている最高の場所。そして、研究を続けた末にマンドーはアンフォラでの熟成を経ることにより、その個性を最大限に引き出せることに辿り着いた。

 バリック熟成では表現できない、マンドーのフレッシュさやエレガンス、その個性を引き出されたワイン造りが、ドイツ、イギリス、アメリカからも高い評価を得、世界のワイン業界からバレンシアが今、新たに注目を浴びている。