バスクの貴公子テルモ・ロドリゲス

テルモ・ロドリゲスは1962年、リオハの名門ワイナリー「レメリュリ」を所有する一家に生まれました。ビルバオ大学を卒業後、ワインメーカー(造り手)になる勉強をするためにフランス、ボルドー大学醸造学部に留学。卒業後はボルドーのコス・デス・トゥルネル、ローヌのJ.L.シャーヴ、プロヴァンスのトレヴァロンのもとで修行を積み、1989年より実家レメリュリに戻り、ワインメーカーとしてキャリアをスタート。しかし、ワイン造りに対する意見の違いからオーナーである父ハイメと衝突。自らの信じるワイン造りを行うために、レメリュリでのキャリアを捨て、1994年に盟友とコンパニア・デ・ビノス・テルモ・ロドリゲスを設立。自らの信じるワイン造りをスタートしました。

失われつつある固有品種とテロワールの復興

テルモが自らの会社を設立した1990年代のスペインでは、カベルネ・ソーヴィニョンやシャルドネなどフランス系の国際品種を取り入れる動きが活発であり、伝統的でマイナーなスペイン土着の固有品種から、そうした国際品種への改植が進められていた時代でした。テルモはこのままではスペイン固有の品種とワイン生産の文化と歴史が途絶えてしまうと危惧し、「かつてワイン生産の歴史と文化がありながら、現在は忘れ去られた無名の、もしくは低い評価の産地で固有品種のワインを造り、国際的に受け入れられる評価を獲得することにより、産地や固有品種の価値を取り戻す」ことを目指したワイン造りを行うことを決意します。

テルモはスペイン北部を中心に全土を走り回りながら、さまざまな地域で地元の固有品種の古木が植わる、伝統的な方法で優れた葡萄栽培を行ってきた畑を探すことから始めました。そしてその土地を所有する栽培家や生産者に協力を仰ぎ、彼らの醸造場の設備を借りて、自らの理想とする「固有品種とその土地の個性、テロワールを表現したワイン」を造り始めました。

2020年6月下旬ランシエゴ村(リオハ)のぶどう畑から届けてくれたビデオレター

アンファン・テリブル(恐るべき子供)”から、
スペインで一番有名になった男”へ

このように各地でのワイン造りを成功させたテルモでしたが、その独自のスタイルと、スペイン固有のワイン造りの文化と歴史を軽んじ時代のニーズに合わせて国際品種への改植を行うような大手生産社への批判的な姿勢から、「アンファン・テリブル(恐るべき子供)」と揶揄され、異端児扱いされることもありました。しかし、「地元固有のワイン生産の文化と、テロワールと、ぶどう品種の価値の再生」というスペインのワイン造りの原点に立ち戻るという彼の信念は次第に世界的に注目を集め、今では世界的に最も成功したスペインワイン生産者として「スペインで一番有名になった男」と呼ばれるまでになりました。

リオハにおいては、2009年に長年の夢であった自身の拠点となるワイナリー「ボデガ・ランサガ」を建設し、2010年には長らく離れていた実家のワイナリー、レメリュリにも復帰。スペイン各地でワイン造りを行うテルモが、スペインで最も有名な銘醸地であり故郷のリオハでこれから何を行うのか、どのようなワインを生み出すのか。今やその行動のすべてが世界中から注目を浴びる存在となったのです。

テルモ・ロドリゲスとodex

odexは1972年の設立当初から50年近く、ヨーロッパのワインを日本に紹介してきました。その間ずっとこだわってきたのは「コストパフォーマンス」。おいしくてやさしいワインを日々楽しんでもらえるようなライフスタイルを目指すodexが選ぶのはコストパフォーマンスのよいワイン。国際品種ではなく、その土地に古くからある固有品種だから。世界的に名の知れた有名産地ではなく、伝統的なワイン造りの文化と歴史のある今まさに有名になろうとしている産地だから。だからテルモは、コストパフォーマンスのよいワインを造ることができると考えています。

実はodexは1990年代の始めまではボルドーの古酒のインポーターとして知られていました。主に扱っていたのは1960年代から1970年代のコストパフォーマンスのよいプティミレジム。蔵出しのものを買っていたので今では信じられないような低価格で一流シャトーのワインが買えました。ちょうどソムリエという存在が日本においても広く知られるようになった頃、日本を代表するようなソムリエたちとともに度々ボルドーを訪れました。そのお礼としてボルドーからもいろいろなシャトーからプロモーションに来日してくれましたが、その中の一人、シャトー・コス・デストゥルネルのジャン・ギョーム・プラッツに当時まだ無名だったテルモを紹介してもらいました。時を同じくして「これから絶対に有名になる生産者だから」とワインの専門誌『ヴィノテーク』から紹介してもらったのもテルモ。早速にスペインへ会いに行きました。

テルモと一緒に車に乗ってスペイン中を回り、リベラ・デル・デュエロやプリオラートなどこれから有名になる産地を訪れて、今度はテルモに、スペインのいろいろな生産者を紹介してもらいました。リオハにある彼のワイナリー「ボデガ・ランサガ」は、自然に溶け込むようなひっそりとした佇まい。外壁には廃材となったオーク樽を再利用しています。ワイナリーを見れば、いかにテルモと彼のワインが、自然体で無理がないかを物語っています。

ランシエゴ村(リオハ)にあるテルモのワイナリー、ボデガ・ランザガ