オーデックス・ジャパンは2024年11月16日(土)、3つのイベント「建築とワインを楽しむセミナー」と「弓指貴弘個展」、「フードトラック・ハガリ ランチ会」を同時開催しました。イベントの模様をお伝えします。
1.建築とワインを楽しむセミナー
◾️概要
開催時間:11:00〜12:30
第1部 内木先生による建築解説
オーデックス・ジャパンの社屋「グラスハウス1(NAH6601)」と「グラスハウス2(GLH1209)」の建築デザインを手がけた建築家・鈴木恂(すずき・まこと)さんの建築設計事務所、株式会社エーエムエスの代表取締役で早稲田大学芸術学校講師を務める内木博喜(ないき・ひろき)さんをお招きして、実際の建物の内外からデザインの解説を語っていただくセミナー。
座学30分と、社屋内外の実地検証30分で構成。
第2部 easy WINE nino vino happisimoトーク
nino mori(森俊彦 odex)によるワインにまつわるトーク約30分で構成
第一部 内木先生による建築解説(座学)の要約
◆記号NAHの意味
皆さんがいま、座っているこの建物「グラスハウス1( NAH6601)」は、1967年に竣工しました。
私が尊敬する鈴木恂先生がデザインしたものです。もともとナガオさんという宝石業の方お宅として作られたためnagao houseの略が記号のNAHの背景です。
◆鈴木恂先生はコルビュジエの孫弟子
コルビュジエを師匠と仰いだ日本人が3人います。前川國男さん、坂倉準三さん、吉阪隆正さん。
前川さんと坂倉さんがコルビュジエに師事したのはコルビュジエが40歳代、吉阪さんは60歳代。この吉阪さんが鈴木恂先生の師匠です。
このため、鈴木恂先生はコルビュジエの孫弟子、私はひ孫弟子になります。
吉阪さんは1957年にヴェニスのビエンナーレを設計し、その凱旋講演に参加した鈴木恂先生は、図面を見てショックを受け、吉阪さんの門戸を叩き弟子入りします。
やがて29歳で独立して建築設計事務所を設立。今からちょうど60年前で、今年60周年を迎えました。鈴木恂先生は現在89歳。現役で一緒に設計しています。
◆鈴木恂先生の参考図書
鈴木恂先生を知る図書でおすすめは『回KAIRO廊』、『天TENT MAKU幕』の2冊です。
鈴木恂先生が60余年撮りためた写真の中から回廊と天幕を特集した本です。
建築そのものでなく、建築と街、人をつなぐ中間の存在として、回廊と天幕にフォーカスしている点がユニークです。
◆グラスハウス1の構造を平面図で解説
もともとこの「グラスハウス1(NAH6601)」を注文し、住んでいたナガオさんは宝石業を営んでいた方で、リビングで応接し、この部屋を工房にしていました。
1階のトイレは、昔の「手伝い人室」いわゆる家政婦用の部屋の跡地。2階の一番東側、今オフィスに使っている部屋は寝室の跡地です。
この建物の一番の特徴は、空間を西に開くクリスタルカット。宝石業の方のお宅だったので、西に向かう窓は、宝石のような45度の角度のカットで壁に設置され、開放している。そのかわり東に向かう壁はほとんど閉じている。
これは、この建物ができたときに、近隣に2階建の建物が隙なく建ち、西側だけが抜けていたので、西に抜ける風景をどのように建築に取り入れるかが課題と考えたためです。
このため、西側の風景に視線を誘導するために、どの部屋の窓も西側に開き、重ならないように張り出すように配置されています。
東側は隣家が間近で見えるため、全部ふさいでいる。これが構造的にも耐震効果をもたらしています。2階の今のオフィスの部屋が、唯一東側が開いている部屋で朝日が受けられる。
吹き抜けのリビングにある4本の柱は、屋根を支える構造的な効果とともに、樹木のようなデザインに視覚で楽しむ効果もあります。
もう一つの特徴は、木造とコンクリートの構造が合わさっていること。これを60年前にやっている建物はなかなかない。木造だけで耐震性を出そうとすると、かなり壁量が必要になる。コンクリートの壁を併用することで木造の壁量が軽減できて開放的に抜ける空間を実現している。
実務的には、木造とコンクリートの併用の耐震構造を計算することは、複雑で難易度が高い作業です。
その一方で、木造構造だけだと、今年発生した能登地震のように、屋根瓦の重みで倒壊する家屋が多い。
このため、木造とコンクリートとの併用は、今後の日本の住宅建築で、注目すべき構造だと思っています。
◆鈴木恂先生の着想
鈴木恂先生は人体のパーツの構造を建築デザインの着想に使うことが多く、「グラスハウス1(NAH6601)」の構想初期は、足首や足の指、踵などの構造を描いた、有機的なラフスケッチが残されています。
それが進化し、だんだん平面化しながら、45度のカットを取り入れながら、幾何学的に落とし込まれていきます。
最終的には、単純な箱型の建物に、大胆なカットを入れ、それをどのように支えていくか、という構成でまとめられました。
◆ニーノ(森俊彦)との出会い
今から17年前の2007年5月、長い間空き家だった「グラスハウス1(NAH6601)」を森さんが購入され、連絡があり、鈴木恂先生と訪ねました。
その1週間後に現状調査をし、1ヶ月後に改修工事をはじめ、3ヶ月後に終了。リフレッシュしました。
◆「グラスハウス2(GLH1209)の設計」
それから5年後、森さんは隣の敷地を購入されました。森さんから、そこに「機能がない、パビリオンのような、瞑想する空間をつくってほしい」という依頼があり、設計し、「グラスハウス2(GHL1209)」が2013年に竣工しました。
45度のコンセプトを生かしながら、森さんの要望で、朝日が見える東側も開放する窓を取り入れました。
グラスハウス1と2の間に設けた、幅3.5m、長さ20mのウッドデッキは、西にダイナミックな抜け感をつくるための、何もない抽象的なデザインで、現代の都市空間では贅沢な空間です。
◆建物が生き長らえる
住宅は、作る側、住む側、お互いの心が通じることで、生き続ける。
私は森さんと17年間お付き合いしながら、建物が生き長らえるとは、どういうことなのか、考えさせられているのが、このグラスハウス1と2です。
第一部 内木先生による建築解説(実地検証)
第2部 ニーノの「easy WINE nino vino happisimo トーク」の要約
◆ワインをやさしく
今年も12月は、ホノルル・フルマラソンを走る予定です。昨年は妻の久美と完走しました。70歳の時よりも80歳の今の方が元気だと感じるのは、この建物のおかげだと思い、鈴木先生や、内木先生に感謝しています。
来年の活動のテーマは「やさしい」です。人にやさしくしたい、という意味もありますが、ワインをやさしく伝えたい。
今はワインの情報があふれているけれど、人々はかえって迷うと思います。
当社のワインを飲んで、美味しいと思う人に買っていただければいいと思ってます。だから、ワインのことは、語りません。
(この後、オーデックス・ジャパンが扱うワインの資料、お土産のフランスワイン、オリーブオイルなどの説明があり、飲んでみて、美味しいと思ったら買ってください、と結びました)
2.弓指貴弘個展 mirror of the soul
◾️内容
画家・弓指貴弘さんの最新作を展示即売する会。
当日は弓指貴弘さんも在廊
3.「フードトラック・ハガリ」ランチ会
◾️内容
「フードトラック・ハガリ」は、東京青山の高級イタリア料理店「チンクエ・メッゾ」のオーナーシェフ・葉狩洋(はがり・ひろし)さんが調理する惣菜やパン、お菓子を、娘の葉狩澪蘭(はがり・みらん)さんがフードトラックに積んで、移動販売する業態です。
レストランのクオリティのお料理が、お求めやすい価格帯で、社屋内でグラスワインと合わせたイートインやテイクアウトでお楽しみいただけます。
◆その日のメニューの一部
メニューは日によって変わります。
4.まとめ
弓指貴弘さんの個展は、この日で最終日となりました。来場された参加者、長期間展示の接客対応してくださった弓指貴弘さん、誠にありがとうございました。
弓指さんには、次の関連ミッションがあり、引き続きよろしくお願いします。
建築セミナーに参加された約20名の参加者、そして、ワインを購入していただいた皆さまにも、重ねて御礼申し上げます。
内木博喜さんがセミナーで強調された、建築と人の関係。それを人が実際に、課題の建物の中で、作家の意図やデザイン、構造、空気の流れを、リアルに五感で実感することは、パソコンの画面を通して知る学習とちがう体感ができたことと思います。
また、その後の「フードトラック・ハガリ」ランチ会は、講師や参加者をはじめ、アートや料理、ワインを提供する人々をつなぎました。その場をやさしく包んだ建物に、新たな魅力を発見する、いい機会になりました。
5.次回イベント予告
イラストレーター・フカザワテツヤ個展「グラス越しの風景」
11:00〜16:00
2024年12月14日(土)、15日(日)、21日(土)、22日(日)
「フードトラック・ハガリ」ランチ会
11:00〜16:00
2024年12月14日(土)、21日(土)、22日(日)
3日間は、フカザワテツヤ個展と同時開催です。
なお、12月7日(土)はホノルルマラソン参加の都合で、「フードトラック・ハガリ」ランチ会はお休みします。
あらかじめご了承ください。
(監修:オーデックス・ジャパン 写真・文:ライター 織田城司)
Supervised by ODEX JAPAN Photo & Text by George Oda