オーデックス・ジャパン森夫妻は、残暑が厳しく、大リーグ大谷翔平選手の47号本塁打47盗塁達成が日本で報道された2024年9月12日(木)、雑誌『イタリア好き』主催のイタリア郷土料理を巡る食事会「カンパーニャ料理とパネットーネ」に参加しました。
これは同誌が8月に発行した58号で「パネットーネの沼」が特集された機会に、パネットーネにこだわり、30年間つくり続けている鈴木与平シェフの麻布十番のイタリアン・レストラン「ピアット スズキ」にて、名物のパネットーネと、晩夏向けに組まれた南イタリア・カンパーニャ州の郷土料理をイメージしたコース料理と、ワインを楽しむ食事会です。イベントの模様をお伝えします。
1.コース料理とワイン
〈アミューズ〉
生産地:イタリア南部カンパーニャ州 ワイナリー:イ・ボルボー二
ブドウ種:アスプリーニオ100%
〈冷前菜〉
〈温前菜〉
馬車に乗ったモッツァレッラを意味するカンパーニャ州の伝統料理。モッツァレッラ・チーズを挟んだパンを揚げたもの。
生産地:イタリア南部カンパーニャ州 ワイナリー:カンティーネ・ディ・マルツォ
ブドウ種:フィアーノ100%
〈プリモ〉
プロボーネチーズはカンパーニャ州ナポリ発祥で、今はイタリア各地でつくられているセミハードチーズ。
ネラーノ風とは、カンパーニャ州のソレント半島のズッキーニを使った郷土パスタのこと。
今回のズッキーニは、パスタの具材に加え、揚げたズッキーニもトッピングに振りかけた。
生産地:イタリア南部カンパーニャ州 ワイナリー:サン・サルヴァトーレ1988
ブドウ種:アリアニコ100%
〈魚料理〉
魚は甘鯛を使用。一般的なアクアパッツァは煮込むが、揚げることで独自性を出した。
〈肉料理〉
ブラチョーラはカンパーニャ州ナポリの伝統的な肉巻き料理のこと。干し葡萄をのせて揚げたプロボーネチーズと、パンチェッタをのせたトウガンの煮物を添えた。
生産地:イタリア南部カンパーニャ州 ワイナリー:テヌータ・スクオット
ブドウ種:アリアニコ100%
〈ドルチェ〉
自家製のパネットーネは、シンプルに生クリームと合わせるのが鈴木与平シェフのおすすめ。
2.パネットーネ・トーク
イタリアでコンテスト荒らし
食事会のなかで、松本浩明編集長は鈴木与平シェフにパネットーネの思いをたずねると、以下のように語りました。
僕はずっとパネットーネをつくり続け、このビルの7階を工場にして、パネットーネだけを焼く釜を4台設け、大量生産しています。大量といっても、1日12個だけです。
6年ほど前、日本でパネットーネをつくる人は、ほとんどいなくて、自分の位置がわからなかったため、イタリアのパネットーネ・コンテストに出ました。
ブレシア、ミラノ、ローマ、バーリ、パルマ。5つの大会に出て、すべての大会でファイナリストに選ばれました。
日本人の参加は初で、現地の新聞でサムライがパネットーネを持ってきたと報道され、そのような話題性から順位に入ったと思います。
日本に帰国した頃、日本でパネットーネ協会ができて、コンテストを行うようになりました。その影響で、日本でパネットーネを地道につくり続けている人がいることを知りました。私のなかで、美味しいパネットーネをつくる日本人は20人くらいいます。
日本のパネットーネ
その後、コロナの時代に、パン屋さんがパネットーネをつくりはじめました。パン屋さんのパネットーネは僕のパネットーネとちがい、日本人が好む、フワフワ、しっとり、口のなかでとろける具合につくります。
僕のパネットーネは、それに比べると美味しくないかもしれません。なぜかというと、まずイースト菌を使いません。天然酵母だけでつくります。なおかつ、乳化剤や柔軟剤も一切入れません。
だから日持ちがしません。よくパネットーネは1ヶ月置くと美味しくなるというけれど、それはウソです。パネットーネ・コンテストでイタリアに行ったときに、現地の職人に話を聞くと、パネットーネ菌は実在しない。そして、柔らかいパネットーネはあり得ない、ということでした。
このため、僕のパネットーネの賞味期限は1週間以内です。それ以降はかたくなります。でも、天然酵母だけでつくるため、菌がしっかりして、他の菌がなかに入りにくい。だから、まわりにカビが発生しても、取り除けば、中身は、美味しいか、まずいか別にして、食べられます。そういう意味で長持ちします。
天然酵母はつくり続けないと弱くなるから、1年間、毎日つくり続けます。天然酵母はわがままで、室温を管理しても、雨季や猛暑などの気候や、つくる人の手によって状態が変わるため、常にチェックをしなければなりません。日本の水は合わないから、フランスのミネラルウォーター、コントレックスを使っています。
松本浩明編集長は、パネットーネはそれだけ手間がかかっているから高額になる。つくり手もこだわると、どんどん「沼る(ぬまる)」。沼にはまって抜け出せなくなるという意味で、それが雑誌の特集のタイトル「パネットーネの沼」の背景だと語りました。
3.まとめ
鈴木与平シェフによると、コース料理のコンセプトは、夏だからカンパーニャ州ナポリというリクエストを受け、構成したけれど、麻布十番のビルの6階であることも意識し、モダンなアレンジで仕上げたと語りました。
合わせるワインもすべてカンパーニャ州産で、麻布十番のナポリの世界観を堪能しました。
パネットーネのように、ひとつのことにこだわり、ライフワークとして続ける活動には、尊さを感じます。そこからにじみ出るものが、料理の味にも表れていると感じました。
それとともに、日本とイタリアの味や、菌の力を考える機会になった食事会でした。
(監修:オーデックス・ジャパン 写真・文:ライター 織田城司)
Supervised by ODEX JAPAN Photo & Text by George Oda